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広島地方裁判所 昭和42年(行ウ)27号 判決 1974年5月23日

広島市己斐中一丁目八番三号

原告

中村シヅエ

右同所

中村武治

右同所

中村充宏

広島市己斐中一丁目六番二三号

中村幸夫

広島市庚午北二丁目六番九号

中村和博

広島市庚午北二丁目六番二一号

原告

中村正

右原告ら訴訟代理人弁護士

広兼文夫

右同

福永綽夫

広島市加古町九番一号

被告

広島西税務署長

河村文之

右指定代理人

菅野由喜子

右同

松下能英

右同

戸田由己

主文

被告が昭和三九年三月一四日付でなした、亡中村登の昭和三五年度分の所得を四七二万五、〇一九円(但し、審査請求に対する裁決により四五九万三、九五八円と変更)と更正した処分は、そのうち四二三万二、六二一円を超える部分につきこれを取消す。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は全部原告らの負担とする。

事実

(当事者の求める裁判)

第一原告ら

被告が、昭和三九年三月一四日付でなした

一  亡中村登の

(一) 昭和三五年度分所得を金四七二万五、〇一九円(但し、審査請求に対する裁決により金四五九万三、九五八円と変更)と更正した処分のうち金七八万二、九七二円を超える部分

(二) 昭和三六年度分所得を金一九九万八、二四七円(但し、審査請求に対する裁決により金二〇一万七、九九七円と変更)と更正した処分のうち金八八万五、三六九円を超える部分

二  原告中村シヅエの

(一) 昭和三五年度分所得を金六〇万六、二四七円(但し、審査請求に対する裁決により金五七万〇、六七八円と変更)と決定した処分のうち金五二万二、六三四円を超える部分

(二) 昭和三六年度分所得を金七一万一、二二七円(但し、審査請求に対する裁決により金六六万二、四二二円と変更)と更正した処分のうち金五八万三、四七〇円を超える部分をそれぞれ取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

第二被告

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

(当事者の主張)

第一請求の原因

一  亡中村登(以下登という)は、昭和三五年、三六年度分の所得についてそれぞれ金八六万〇、二九六円、金六六万八、八五四円と確定申告をなし、原告中村シヅエ(以下シヅエという)は、昭和三六年度分の所得について金五九万七、〇三〇円と確定申告をなした。

二  被告は、昭和三九年三月一四日、亡登の昭和三五、三六年度分の所得をそれぞれ金四七二万五、〇一九円、金一九九万八、二四七円、原告シヅエの昭和三六年度分の所得を金七一万一、二二七円と各更正し、更に同人の昭和三五年度分の所得を金六〇万六、二四七円と決定した。

三  亡登並びに原告シヅエは右各処分に対し異議申立をしたが、右申立は同年一一月九日いずれも棄却され、その旨同月一二日通知された。そこで同年一二月一一日広島国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は昭和四二年六月一二日、亡登の昭和三五、三六年度分の所得をそれぞれ金四五九万三、九五八円、金二〇一万七、九九七円(裁決額が原処分額より所得額を多額としているが、算出税額においては、裁決額の方が少額である)原告シヅエの昭和三五、三六年度分の所得をそれぞれ金五七万〇、六七八円、金六六万二、四二二円と裁決した。

四  被告の右処分には、亡登、原告シヅエの所得を過大に認定した誤りがある。

五  亡登は本訴を提起し係属中、昭和四七年一〇月一三日死亡し、同人の妻である原告シヅエ並びに同人の子であるその余の原告らがこれを相続し、訴訟を受継した。

六  よつて請求の趣旨記載の判決を求める。

第二請求の原因に対する答弁

請求原因一ないし三、同五の事実は認め、同四の事実は争う。

第三被告の主張

一  亡登、原告シヅエには別表一記載のとおりの所得がある。

二  亡登、原告シヅエの所得の明細

(一) 不動産所得

亡登、原告シヅエは白色申告者であるが、不動産所得にかかる原始記録等を保存していないので、被告はやむなく通常の所得率に従いその所得を推計した。その結果の明細は別表二、三のとおりである。

(二) 給与所得

亡登、原告シヅエは鯉松園産業株式会社役員として別表一記載の給与を得ている。

(三) 亡登の事業所得

(イ) 亡登は広島緑地建設株式会社らに対し、金員を貸付け、利息を得ている。その明細は別表四(利息の詳細は別表五の一ないし二五。)のとおりである。なお利息債権が発生し、支払期が到来している以上、現実に支払いを受けたか否かに関係なく収入として計上すべきである。

別表五の六、一〇、二三についての自白の撤回には異議がある。

別表五の二一について・・・柳川は、亡登に対し昭和三六年一月二七日から同年三月二六日までの間に七通の約束手形(額面合計五四五万六、七二七円)を振出し、同年四月七日、これを公正証書により金銭準消費貸借に改めたが、その際弁済期は同年四月一、九日(分割)、遅延損害金の割合は年三割と定めた。そして右金員のうち一〇〇万円は昭和三六年中に返済を受けた。これら金員の弁済期後の遅延損害金を算出すると別表五の二一のとおりである。

(ロ) 亡登は不動産仲介業により昭和三六年に金一三万四、五〇〇円の不動産売買益を得た。

(ハ) 以上により亡登の事業所得は別表八記載のとおりである。

原告らの答弁

一  認否は別表一記載のとおり。

(一)  亡登、原告シヅエが白色申告者であること、不動産所得に関する記録を保存していないことは認める。推計課税自体に異議はない。

不動産所得に関する認否は別表二、三のとおり。

(二)  認める。

(イ)1 元本債権について

別表四の<18>、<24>の消費貸借の事実は認める。

亡登は柳川勲(以下柳川という)に対し別表六記載のとおり債権を取得し、貸金以外の債権については、その後準消費貸借契約により貸金債権に改めた。

右以外の貸金債権はない。

2 利息債権(別表五の一ないし二五)について別表五の一八のうち金一万四、〇〇〇円の利息並びに同五の二四の利息を得たことは認める。

柳川からの利息収入は別表七記載のとおり。

右のほか利息収入はない。

別表五の一、八の金員は、前述の柳川に対する利息として受領したものである。

別表五の六、一〇、二三の受領金員は田辺頼一が亡登の仲介により会社あるいは柳川に貸付けた金員に対する利息として受領したもので、亡登は右金員を右田辺に渡しており自ら取得した事実はない。なお原告らは、従前右金員が亡登の取得した利息であることを認めていたが右自白は真実に反し、かつ錯誤によるものであるから撤回する。

別表五の一二、一三、二五の入金は、植木の売却代金、地代もしくは貸植木の代金である。

柳川から約束手形七通の振出を受けたこと、昭和三六年四月七日に被告主張のような金銭準消費貸借契約を締結したことは認める。ところが柳川は期日にこれを支払わないので、亡登は強制執行により金二八〇万円を回収したもののその余の元金の回収さえできない状態であるから遅延損害金を収入として計上すべきではない。

その他、被告主張の別表五の三ないし五、七、一一、一四ないし一七、一九、二〇の事実は否認する。右貸借の事実があるとすればその貸主は久保正または田辺頼一であると考えられる。亡登は同人らの貸付けを仲介したことがあるにすぎない。

(ロ) 認める。

(ハ) 認否は別表八記載のとおり。

第四証拠関係

一  書証

提出並びに認否の関係は別紙二のとおり。

二  人証

(原告ら)

証人久保正、三宅寛、厚井哲司、望月家継および古本良夫の各証言、並びに原告中村シヅエ本人尋問の結果援用。

(被告)

証人長畑正憲、原清明、柳川淳、今田英美子、津田吾郎、中本勇および山脇辰義の各証言援用。

理由

(理由中で引用の書証の成立の関係は別紙二参照)

一  請求原因一ないし三、同五の事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  原告シヅエの所得について

(不動産所得)

原告シヅエが白色申告者であること、不動産所得に関する原始記録等を保存していないことは当事者間に争いがなく、被告の採用した別表三記載の所得率も合理的なものと認められるので、被告が原告シヅエの不動産所得についてなした推計課税は適正なものと認められる(以下の所得額の算出は右所得率による。)。

(一)  昭和三五年度

乙第四号証の二によれば、原告シヅエの桧垣シカヨに対する貸宅地賃料は、昭和三五年一月より三月までは月四、〇〇〇円、四月以降は月四、八四六円であることが認められ、これに反する証拠はない。従つて同人からの昭和三五年度分賃料は五万五、六一四円と認められる。

右同号証、乙第六号証の二によれば原告シヅエより稲田に対する貸店舗賃料は、同年度月一万五、〇〇〇円と認められこれに反する証拠はないから、同人からの昭和三五年度分賃料は一八万円と認められる。

その他の昭和三五年度の賃料収入額が別表三のとおりであることは当事者間に争いがないので、結局原告シヅエの昭和三五年度の不動産所得は四九万四、七〇九円となる。

(二)  昭和三六年度

乙第二号証の一八、並びに証人長畑正憲の証言によれば、昭和三六年度の原告シヅエより稲田に対する貸店舗賃料は月一万五、〇〇〇円、年一八万円と認められる。これに対し原告シヅエは同年七月以降稲田が行方不明となつたため右賃貸借は終了したと主張するがこれを認めるに足る証拠はなく、前記証拠によれば、原告シヅエは右賃料を取得したものと認めることができる。

昭和三六年度のその他の資料収入額か別表三のとおりであることは当事者間に争いがないので、結局原告シヅエの昭和三六年度の不動産所得は被告主張のとおり五八万三、八七一円となる。

(給与所得)

原告シヅエの本件係争年度における給与所得が別表一のとおりであることは当事者間に争いがない。

そうすると、原告シヅエの総所得金額は昭和三五年度分が五九万二、三〇九円、昭和三六年度分が六九万〇、二七一円となり、被告が原告シヅエに対してなした本件所得決定処分は、いずれも右の範囲内にあるから所得を過大に認定した違法はない。

三 亡登の所得について

(昭和三五年度分)

(一)  同年度の亡登の不動産所得が二七万三、九二八円の欠損であつたこと、同じく給与所得が二三万九、二〇〇円であつたことは、いずれも当事者間に争いがない。

(二)  事業所得

1  広島緑地建設株式会社貸付分

証人今田英美子、柳川淳の各証言によれば、亡登は訴外広島緑地建設株式会社(以下訴外会社という)に金員を貸付け、利息を収受していた事実を認めることができる。原告らは、亡登が訴外会社へ金員貸付の仲介をした事実はあつたが、自らは金員を貸付けていないと主張し、証人厚井哲司、久保正の各証言並びに原告中村シヅエ本人尋問の結果は右主張に符号するけれども前掲各証言に照らし措信しない。以下詳述する。

(1) 別表四の<1>、<2>(同五の一、二)について

証人今田英美子の証言によれば、訴外会社は亡登から金員を借入れるにつき、先日付小切手を発行し、利息は小切手ないし現金で決済し、支払期日に元本が支払えない場合には小切手の書替えをする方法をとつており、契約書など作成していなかつたこと、右今田英美子は訴外会社の経理事務にあたつていたものであるが亡登と訴外会社間の金銭貸借関係並びに利息の収受状況を明らかにするため会社備付の帳簿、小切手帳の控、返還手形等を参照したうえ中村登と広島緑地建設株式会社間の債権債務発生減状況と題する書面(乙第二号証の一四一な根ないし一〇)を作成したことが認められる。右作成の経緯からすれば、右書面は客観的理由拠に基き正確性を具有するものと認めることができる。(但乙第二号証の一四の四を除くは後記参照)。

そして、右乙号証のほか乙第八号証の三、七、一〇ないし一二、乙第一〇号証、第二一号証、第二二号証の一ないし三並びに証人長畑正憲、同今田英美子の各証言を総合すると訴外会社は別表五の一、二のとおり(但し後記(イ)(ロ)を除く)昭和三五年度において当座小切手もしくは現金をもつて、亡登に対し利息の支払いをなしていることが認められる(別表五の一、二の認定欄記載のとおりである。単に書証番号のみ記載してあるのはこれにより被告主張事実が認められることを示す。)。

(イ) 別表五の一の番号4ないし6、15、16別表五の二の番号6ないし19について前記乙第二号証の一四の四のほか乙第二号証の一〇並びに証人三宅寛、柳川淳の各証言を総合すると訴外柳川淳が昭和三四年一一月頃訴外三宅寛および亡登から三五〇万円(各一七五万円)を利息月五分の約定で借受け、昭和三五年一、二月分の利息三五万円の支払いのために振出した小切手の複利による利息支払状況を右乙第二号証の一四の四に記載したものと認められ、これに反する証拠はない。従つて右別表番号記載の利息の支払者は、訴外会社ではなく、訴外柳川淳であるということができる。そして被告は後記3認定のとおり別表4の<11>(別表五の一一)において、右訴外柳川淳から収受した利息を亡登の所得として別個に計上していると認めるのが相当であるから、これをさらに所得として計上すべきではない。

(ロ) 別表五の一番号11ないし14、同五の二番号29ないし37、39ないし67について・・・・乙第二号証の一四の六、八ないし一〇、同号証の一五の一二、一四、一八ないし二一並びに証人今田英美子の証言を総合すると、右利息は訴外柳川勲が亡登から借入れた金員の利息として同人宛に振出した小切手に関して生じた利息と認められるから訴外会社からの利息として計上すべきではない。しかし、亡登に右利息収入が存したことは明らかであり利息支払者の認定が誤まつたとはいえ本訴において原告らの防禦権が害されたとも認め難いから結局右利息を亡登の事業所得と認定した被告の処分に違法はない。

(2) 別表四の<3>ないし<8>(別表五の三ないし八)について別表五の三ないし八認定欄記載の証拠によれば被告主張事実を認めることができこれをくつがえすに足る証拠はない。(別表四の<6>、別表五の六のうち小切手で支払いを受けた一万二、〇〇〇円が亡登の取得した利息でないとの立証はないから、これに関する原告らの自白の撤回は許されない。)

なお、原告らは別表四の<8>(同五の八)のうち小切手で支払いを受けた一万六、五〇九円は訴外柳川勲からの利息であると主張するが、乙第八号証の一五によれば右小切手は訴外会社の口座から振出されていることが認められるから、同社の債務として振出されたものと推認することができる。

2  柳川勲貸付分

(1) 別表四の<9>(別表五の九)について

証人今田英美子、柳川淳の各証言並びに原告中村シヅエ本人尋問の結果によれば、前記今田英美子は、訴外会社の訴外柳川勲が亡登から個人的に金銭を借入れ利息を支払うことに関しても経理を扱つていたこと、柳川勲作成の中村登に支払明細書と題する書面(乙第二号証の一五の四ないし一四、一六ないし二六、二八、三〇、三二、三四)は右今田が柳川勲の亡登に対する利息支払いの状況を小切手帳、帳簿、返還手形等を照合して記載したものであることが認められ、証人長畑正憲の証言に徴して認められる右乙号各証の記載が小切手帳、メモ等の資料に符合していること、また、証人今田英美子の証言に徴して認められる亡登と柳川勲との間の金銭貸借の残存元本は最終的に七通の約束手形(合計五四五万六、七二七円)に整理されていたがこの手形である乙第二号証の一五の三、一五、二七、二九、三一、三三、三六(額面合計五四五万六、七二七円)が前記今田英美子作成にかかる前記書面記載の残存元本に合致すること等の事実によれば、右書面(乙第二号証の一五の四ないし一四、一六ないし二六、二八、三〇、三二、三四)は真実に符合し正確なものと認めることができる。右認定をくつがえすに足る証拠はない。

そして右乙号各証によれば、別表四の<9>(別表五の九)の事実を認めることができる。(別表五の九認定欄記載のとおり)

(2) 別表四の<10>(別表五の一〇)について

別表五の一〇認定欄記載の証拠によれば被告主張事実を認めることができ、これをくつがえすに足る証拠はない。(なお、右のうち小切手で支払いを受けた分については、これが亡登の取得した利息でないとの立証はないから、これに関する原告らの自白の撤回は許されない。)

3  別表四の<11>(別表五の一一)について

被告主張事実のうち元本債権については前記三の(二)の1の(1)の(イ)のとおり認められ、利息のうち昭和三五年一月ないし五月分については別表五の一一認定欄記載の証拠によりこれを認めることができる。さらに被告は同年六月ないし一一月分利息として五六万円の収入があつたと主張する。そして、乙第二号証の一一には、亡登が右貸金の利息として一一二万円(柳川淳からはその二分の一の五六万円)の収入があつた旨の記載があるが、証人柳川淳の証言によると、右乙号証は右貸金の元本および利息の支払関係の最終計算書であると認められるから、右一一二万円は、昭和三五年一月ないし五月分の利息を含んだ右貸金に対する利息の総額と認めるのが相当であつて(なお後記参照)被告主張のように、昭和三五年六月ないし一一月分だけの利息収入とは解されない。その他、乙第二号証の五、一〇によるも被告主張事実を認めるには足りず、他にこれを認めるに足る証拠はない。そうすると亡登が取得した別表四の<11>(別表五の一一)の利息の総額は乙第二号証の一一記載の五六万円と、右のうち昭和三五年一、二月分の利息として振出した額面三五万円(亡登分はその二分の一)の小切手に関して生じた利息(別表五の一の番号4ないし6、15、16別表五の二の番号6ないし19・・・・前記三の(二)の1の(1)の(イ)参照。なお、被告は上記利息は亡登が訴外会社から取得したものと主張するのであるが、これを柳川淳から取得したものとして認定できることについては前記三の(二)の1の(1)の(ロ)参照。)の二分の一の合計九〇万六、七四一円と認めるのが相当である。

4  別表四の<12>、<13>について

右金員を亡登が受領していることは当事者間に争いがない。しかし、証人古本良夫の証言によれば、前者の金員は同人が昭和三五年当時亡登より賃借していた土地の賃料として支払つたものと認められ、また、証人望月家継の証言によれば、後者の金員は望月工務所が亡登から購入した植木の代金として支払つたものと認められ、これらに反する証拠はない。すなわち、右金員は被告主張のように亡登の利息収入とは認められず、事業所得に属するとはいえ経費等の控除等所得金額の算定の根拠について被告の主張立証がないから、これを亡登に対する所得に計上するのは相当でない。

以上によれば、亡登の昭和三五年度分の利息収入は四八五万一、五四九円と認められ、乙第二号証の三一によれば右収入を得るに要した経費は五八万四、二〇〇円と認められるので、同年度の亡登の事業所得は四二六万七、三四九円となる。

よつて、同年度の亡登の総所得金額は四二三万二、六二一円となり、被告が昭和三九年三月一四日付をもつてなした亡登の同年度の所得金額を四七二万五、〇一九円(但し審査請求に対する裁決により四五九万三、九五八円と変更)とした本件処分のうち右金額を超える部分は違法として取消さるべきである。

(昭和三六年度分)

(一)  同年度の亡登の給与所得が二七万六、〇〇〇円であつたことは当事者間に争いがない。

(二)  不動産所得

被告は亡登が訴外中川肉店より三川町アパートの貸店舗賃料として一〇万〇、八〇〇円を取得したと主張する。しかし、原告中村シヅエ本人尋問の結果によれば、同年度において亡登と訴外中川肉店との間に賃貸借関係は存したが、同店と亡登間に右アパート明渡しにつき争いが生じ、結局亡登はそれまでの賃料債権を放棄して右アパートの明渡しを受けたことが認められ、これに反する証拠がない。よつて右の賃料を亡登の所得として計上することはできない。

被告が亡登の不動産所得についてなした推計課税は原告シヅエの不動産所得について判示したのと同一の理由で適正なものと認められ、右中川肉店に対する賃料以外の貸店舗等による収入が別表二のとおりであることはいずれも当事者間に争いがないので、結局亡登の同年度の不動産所得は一一万七、五一二円と認められる。

(三)  事業所得

1  広島緑地建設貸付分(別表四の<14>ないし<20>、同五の一四ないし二〇)

別表四の<18>の消費貸借の事実並びに別表五の一八のうち亡登が一万四、〇〇〇円の利息収入を得たことは当事者間に争いがなく、別表五の一四ないし一七、一九、二〇の認定欄記載の証拠によれば別表四の<14>ないし<17>、<19>、<20>(同五の一四ないし一七、一九、二〇)の事実を認めることができ、これをくつがえすに足る証拠はない。

2  柳川勲貸付分

別表四の<21>(同五の二一)について・・・・柳川勲が亡登に対し昭和三六年一月二七日から同年三月二六日までに振出していた七通の約束手形金(額面合計五四五万六、七二七円)を同年四月七日、公正証書により金銭消費貸借契約に改め弁済期日を同年四月一日同月九日(内訳は別表五の二一参照)、遅延損害金の割合を年三割と定めたことは当事者間に争いがない。そして、乙第四五号証によれば、亡登は、同年四月一九日、右債権のうち三〇〇万円を執行債権として右消費貸借契約の連帯債務者たる訴外柳川淳が第三債務者訴外株式会社第一会館に対して有する三〇〇万円の債権を被転付債権とする転付命令を得、同命令が翌二〇日、債務者並びに第三債務者に送達されていることが認められる。しかし、乙第四六号証の三、五によれば右被転付債権は、当時二八〇万円存するだけであつてその余の部分は効力が発生しなかつたものと認められるので、亡登の柳川勲に対する債権は二八〇万円の限度で消滅したものと認められる。そうすると同年度中の同債権にかかる遅延損害金は別紙一のとおり六一万九、九四九円となる。なお原告らは、亡登の柳川勲に対する右債権は同年度において回収不能の状態となつていたからその遅延損害金を所得として計上すべきでないと主張するが、乙第四六号証の五によれば、右債権のうち二八〇万円が昭和三六年、三七年に回収されていることが認められるから、原告らの主張は採用できない。

別表四の<22>(同五の二二)について・・・・別表五の二二認定欄記載の証拠によれば被告主張事実を認めることができ、これをくつがえすに足る証拠はない(なお乙第二号証の一二、一四、一八、二〇、二一、二三ないし二六、二八、三〇、三二、三四の記載に信用性が認められることは、前記三の(二)の2の(1)で判示したところと同様である。)。

3. 別表四の<23>(同五の二三)について・・・・同金員が亡登の取得した利息でないとの点についての立証がないから、これに関する原告らの自白の撤回は許されない。

4  別表四の<24>(同五の二四)について・・・・当事者間に争いがない。

5  別表四の<25>(同五の二五)について・・・・上記金員を亡登が望月工務所より受領したことは当事者間に争いがないが、証人望月家継の証言によれば右金員は同工務所が亡登より買入れた植木の代金と認められ、これに反する証拠はない。そして、右金員を所得として算出する根拠につき被告の主張立証がないから、これを亡登の所得として計上することはできない。

以上によれば、亡登の昭和三六年度分の利息収入は一九二万九、六八一円と認められ、乙第二号証の三二によれば、右収入を得るに要した経費は三二万七、七六六円と認められるので、同年度の亡登の利息所得は一六〇万一、九一五円となる。

6  不動産売買益

同年度の亡登の不動産売買益が一三万四、五〇〇円であることは当事者間に争いがない。

そうすると、同年度の亡登の事業所得は一七三万六、四一五円となる。

よつて、同年度の亡登の総所得金額は二一二万九、九二九円となり、被告が昭和三九年三月一四日付をもつてなした亡登の同年度の所得金額を一九九万八、二四七円(但し審査請求に対する裁決により二〇一万七、九九七円と変更)とした本件処分は結局正当であつて、原告らの請求は理由がない。

四 結論

よつて原告らの本訴請求は以上判示の限度において理由があるのでこれを認容し、その余の請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条但書、第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田辺博介 裁判官 広田聰 裁判官海老澤美広は転任したので署名できない裁判長裁判官 田辺博介)

別表一

亡登、原告シヅエの所得

<省略>

(注) 上段 被告主張額

下段 原告 〃

二段でないものは争いなし

△印は欠損

以下同じ

別表二

亡登の不動産所得

昭和35年度 △273,928

昭和36年度

<省略>

(注)×印……… 全部否認

( )……… 月額賃料×賃貸期間

以下同じ

別表三

シヅエの不動産所得

<省略>

別表四

亡登の金員貸付並びに利息収入

Ⅰ 昭和35年度

被告の主張

<省略>

Ⅱ 昭和36年度

<省略>

※ 但し、別表五の十六の証拠により元本は200,000円と認定。

別表五の一(同四の番号<1>、以下同じ)

<省略>

<省略>

別表五の二

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表五の三

<省略>

別表五の四(区分は上記と同じ)

<省略>

別表五の五(区分は上記と同じ)

<省略>

別表五の六

<省略>

別表五の七

<省略>

別表五の八

<省略>

別表五の九

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表五の十

<省略>

別表五の十一

<省略>

別表五の十二、十三は欠番

別表五の十四

<省略>

別表五の十五(区分は上記と同じ)

<省略>

別表五の十六(区分は上記と同じ)

<省略>

別表五の十七

<省略>

別表五の十八

<省略>

別表五の十九

<省略>

別表五の二十

<省略>

※ 支払期は1ヶ月後

別表五の二十一(判断は本文並びに別紙一参照)

<省略>

別表五の二十二

<省略>

<省略>

<省略>

別表五の二十三

<省略>

別表五の二十四

<省略>

別表五の二十五(区分は上記と同じ)

<省略>

(注)乙2の14の3は乙第2号証の14の3の略。以下同じ

別表六

亡登が柳川勲に対して取得した債権(原告らの主張)

<省略>

別表七

亡登の利息収入(原告らの主張)

<省略>

別表八

亡登の事業所得

<省略>

別紙一

<省略>

別紙二

書証の認否並びに成立関係

Ⅰ 甲号証

甲第3号証の1ないし3、第4号証…不知、甲第8、9号証…認

Ⅱ 乙号証

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(注)○印は認

△印は不知

成立欄の人名は同人の証言を指す

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